安比塗漆器工房日記

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2009年 11月 14日

先生と生徒?

 昨日、私の手掛けていた摺り漆のタンスが完成し、納品しました。もっとも私は塗り(この場合は摺りか?)専門で、タンスの木地をつくったり、金具をつけるまではできません。なので、本当の完成というよりは摺り漆の工程での完成です。

 私は今年の四月よりここでタンスの塗り専門で仕事をしています。一口にタンスといっても大きさや木の性質、状態などはたとえ同一に木地が仕上がっていたとしても、人間と同様、全く同じものはありません。

 例えるなら人間にはやんちゃな性格、おとなしい性格、目立ちたがり屋さん、はにかみ屋さん・・・があるように、タンスの木地にも節が多いもの、木目が美しいもの、木として生きていた頃の導管の大きいもの、小さいもの・・・なんて挙げればキリがない程の性質があります。そんな色々な「性格」をもったタンスをどう育てていくか、どのような塗りや磨きで美しく仕上げていくか、毎日がタンスとの「話し合い」です。もちろん、タンスは話しませんが・・・


 今まで何棹かタンスを納めましたが、毎度思います。

「ああ、こいつは木がよく動いて(温度、湿度で木が伸びたり縮んだり、よれたりする事)俺をハラハラさせたなあ・・・・・・・」

「こいつはここにこすり傷があって治すのに苦労したなあ・・・」

「こいつの側面の模様は綺麗で俺は好きだったなあ・・・」

それぞれに思い出が出来てしまうのです。これって生徒を送り出す学校の先生の気持ちと同じなのでしょうか?

話は少し前に遡りますが、私が仕上げた木地呂の第一号が夏に金具が付いて完成した状態で工房にやってきたことがありました。立派な金具が取付けられ、送り出した頃よりぐっと「成長」した姿に思わず涙しそうになりました。まあ、この場合はあれほどやんちゃだった教え子が数年後に見かけたら見違えるほど大人になっていた・・・なんてところなのでしょうか?

さて、たとえ話はここまでにして、今回、摺り漆のタンス二棹を納めました。実は、タンスの摺り漆は私にとって初めての経験でした。もっとも研修時代に箸や、汁椀の摺りはやったことがありました。同じ摺り漆なのですが、大きさがまるで違うので、いかに均一の光具合でムラなく全体を仕上げられるかが課題でした。

 完成しても、不安は残りました。自分では良いと思っても、相手方がどう感じるかという部分です。


「オッケーです。このまま梱包して持ち帰りましょう。」

という相手方の言葉が出たときには心からほっとしました。そしてまた、このタンスの思い出がふとよみがえりました。
「途中でゴミがついてしまって、表面を滑らかな手ざわりに戻すのに色々試行錯誤したっけなあ」

「小さいほうは初めての摺りのタンスだったからどこまで水研すれば良いのか研修時代を思い出しながら、時には先生に確認をとったりしたよなあ・・・」


といった具合にです。

さて、

タンスを二棹送り出したあとの作業部屋が、やけに広く感じたのと同時に、なぜか寂しさを覚えました。
無事送り出したという安堵感とともに、疲れもドッと感じました。ふと気が付くと家に帰ってから、食事もとらずに寝てしまっている自分がありました。

一晩空けて・・・


 今日は気持ちを切り替え、作業途中の木地呂のタンスの作業に取掛かりました。まだまだ手を付けていないタンスはあり、このなかには、自分として初体験の朱の磨きで仕上げるものもあります。これからもたくさんの「思い出」やエピソードが出来そうです。



まあ、これからも色々なタンスを「育てる」先生の気持ちとして、「教え子」達の成長と将来の幸せを願っていくことにしましょう。

などとえらいこと言っておきながら私自身、まだ研修を終えたばかりの新米先生なのですが・・・・・・・・
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by appinuri | 2009-11-14 19:10 | 工房の日常


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